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急いで封を開け、中を確認した悠翔はしばらく文字を追った後、肩を震わせ笑い始めた。
「えっ、悠翔?どうしたの?大丈夫?」
不安げに見つめる舞花に悠翔は
「読んでみなよ」
と手紙を差し出した。
『ハロー!悠翔。元気?私はまぁまぁ元気よ。そちらはどう?そろそろアヤメが咲く頃かしら?
曲は書いてる?
私は今ウィーンにいるんだけど、久しぶりにお父さんに会ったわ。お父さんったら、私の顔見て”久しぶりだな”って言ったっきり、譜面とにらめっこ。ひどいと思わない?
本当、才能しか取り柄がない男ってこれだからダメよね。あなたはくれぐれも女性に優しい男になるのよ。あっ、来月お父さんがそっちに帰るって言うから相手してやってね。
そうそう次の曲ができたら絶対まっさきに私に知らせなさいよ。父さんに先に聞かせたりしたら許さないわよ。じゃあ、悠翔、元気でね!また手紙書くわ』
すべての文字を追った後、言葉を失った舞花に悠翔は
「俺の母さんってこういう人なんだよ」
と笑った。
「何って言うか……どういっていいのか……」
言葉を必死で探す舞花を気遣うように悠翔は言った。
「”ごめんね”が言えない人なんだ、昔からね。それでもこうやって手紙を送ってくるのは、親としての成長の証だよ。……たぶんね」
「悠翔、嬉しそう」
「どうかな。もうよく分からないよ」
手紙を嬉しそうにたたんだ悠翔の横顔を見て、舞花は小さく微笑んだ。
庭に咲き始めたアヤメの花が静かに風に揺れていた。
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