はじまりの手紙

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「こんないたずらする暇がある奴もいるのに」 先ほど丸めた紙をゴミ箱に捨てると、悠翔はため息をついた。 温子の作るごはんはいつもおいしい。 健康に気遣われているだけじゃなく、悠翔の好みも完璧に把握してある。 だから不平が出ることもないが、当たり前の日常で、あえて「おいしい」と伝えることもない。 食卓には小さな沈黙が続き、時折 「本日は雨が降るようですよ」 「そろそろお迎えの車が参ります」 なんて言葉が差し込まれる。 「ありがとう」 悠翔が返す言葉はそれくらいだ。 それでも温子は少し嬉しそうに微笑む。 たった一言で良い。 僕が欲しいのもそれだけだ。 そう思いながら悠翔は、スープをすすった。
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