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変わりゆく世界
焦げ臭い香りが部屋まで漂ってきたのを感じ、舞花は目をこすりながらリビングに出た。
「ママ、また……」
という言葉に反応するように、母は苦い顔をして
「おはよう。なかなかうまくならないもんね」
と笑った。
「んっ、でも味は上達してる!」
そう言ってつまみ食いした後の指をなめると、母は
「ありがとう。でも、お行儀が悪いわ」
と舞花の手を軽く叩いた。
「いいじゃない。こういうことしてみたかったんだもの。あー幸せ」
そう言ってはしゃぐ舞花の言葉が、半分は本心で半分は嘘だと母はちゃんと分かっていた。
「舞花ちゃん、ごめんね。こんな思いさせて」
「何言ってるの。家族、皆で暮らせている。それだけで私は十分」
「百合子~今日のネクタイどれだ」
父の言葉に反応して、母がいそいそと部屋を出て行く。
少し慌ただしく過ぎて行くこの時間が、舞花はとても好きだ。
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