君のために

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コンサートが始まると、美悠の演奏が終わる度、割れんばかりの拍手が響いた。 「ありがとうございます。えー……続いては、皆さんに若き才能をご紹介したいと思います。 彼女と私が出会ったのは、本当につい最近のことです。私は初めて聞いた彼女のピアノに心奪われました。彼女のピアノを皆さんにも聞いてもらいたい、もっと伸びしろがあるだろう彼女の才能を伸ばしたい。そんな私のわがままで本日、このコンサートに出演してもらうことになりました。では、ご紹介します。高野舞花さん」 声に引っ張られるようにステージに立った舞花を、客席の人たちは笑顔で迎えた。 会場をゆっくり見渡してみたが、そこに悠翔の姿を見つけることはできなかった。 「高野舞花です。よろしくお願いいたします」 ペコリと頭を下げるとまた、会場に拍手が響いた。 「ありがとうございます。今日、高野さんに弾いてもらう曲は彼女のオリジナル曲です。まだタイトルはないのよね?」 「はい。……私には決めることができなくて」 「それだけ思い入れが強いということかしら。とってもすばらしい曲です。皆さんもきっと気に入ってくれると思います。では高野さん準備をお願いします」 うながされて椅子に座ると、一瞬手が強張るのを感じた。 鍵盤の上に手を置いたまま、一度目をつぶり深呼吸をすると少しだけ体が軽くなったような気がした。
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