1.鬼

2/3
前へ
/5ページ
次へ
 大道寺が目を開けると、見知らぬ場所のベッドで横になっていた。 (私、死んだのか……) 『死んでないよ』  頭の中にエコーがかかったようなくぐもった声が聞こえた。 (え?) 『ごめん。驚かせちゃったね』 (……?) 『私、鬼の聡美。地獄から派遣されてやって来たんだけど、あなたが事故で死にかけてたから、憑依して命を繋ぎ止めたの』 「どこぞのウルトラマンですか? あなたは」 『ウルトラマン?』 「知らないならいいや」  その時、看護士が入ってきた。 「よかった。気が付かれたのですね」 今──と、続ける看護士。「誰かと話されてたみたいですけど……」  大道寺は両手の平を看護師に向け、ブンブン左右に振って否定する。 「誰とも話してないですよ!」 「あら? 怪我が治ってますね。不思議ね」  言われてみれば確かに大道寺はどこも痛みを感じていなかった。 「運ばれて来たときは血だらけで重体だったのに、もう完治してるなんて。骨の方は大丈夫?」  大道寺は手足を動かす。 「どこも痛くないです」 それより──と、続ける大道寺。「先生を呼んでもらえますか?」 「ごめんなさい。主治医の先生はもう帰ってしまいました」 「そうですか」 「病み上がりなんだから、あまり動かないで下さいね」  看護師は言うと去っていった。  大道寺は横になった。 『あなたのこと、なんて呼べばいい? 私のことは聡美でいいわ』 「大道寺……ってか、聡美って私と一緒なのよね」 『そうなんだ』 「で、鬼って?」 『よくぞ聞いてくれました! 鬼とは、悪霊を浄化したり、死してこの世を彷徨う霊をあの世に成仏させるのが仕事なの』 「ふーん」 『信じてないわね?』 「信じがたいわ。今聞こえてる答えだって、幻聴かもしれないし」 『会話が成り立つ幻聴ねえ……』 「それもそうね。それより、あなたの姿を見せてよ」 『え? 出たら多分、霊体だから見えないし、声も聞こえないと思うよ?」 「私、霊能力あるから」 『それじゃー』  聡美は大道寺の中から出た。その姿は、白黒の横縞の体に端正な顔立ちだった。 「イメージと全然違うわ」 「どう言うイメージ?」 「赤や青で、一本か二本のツノが生えてる」 「それは言い伝えでしょ。本物は違うのよ」  その時、牛型の怪物が現れた。 「イイ匂イがスルナア」 「何こいつ?」 「悪霊よ!」  聡美が先頭態勢になる。 「オ前、鬼カ。ソレは美味ソウダ」
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加