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大道寺が目を開けると、見知らぬ場所のベッドで横になっていた。
(私、死んだのか……)
『死んでないよ』
頭の中にエコーがかかったようなくぐもった声が聞こえた。
(え?)
『ごめん。驚かせちゃったね』
(……?)
『私、鬼の聡美。地獄から派遣されてやって来たんだけど、あなたが事故で死にかけてたから、憑依して命を繋ぎ止めたの』
「どこぞのウルトラマンですか? あなたは」
『ウルトラマン?』
「知らないならいいや」
その時、看護士が入ってきた。
「よかった。気が付かれたのですね」
今──と、続ける看護士。「誰かと話されてたみたいですけど……」
大道寺は両手の平を看護師に向け、ブンブン左右に振って否定する。
「誰とも話してないですよ!」
「あら? 怪我が治ってますね。不思議ね」
言われてみれば確かに大道寺はどこも痛みを感じていなかった。
「運ばれて来たときは血だらけで重体だったのに、もう完治してるなんて。骨の方は大丈夫?」
大道寺は手足を動かす。
「どこも痛くないです」
それより──と、続ける大道寺。「先生を呼んでもらえますか?」
「ごめんなさい。主治医の先生はもう帰ってしまいました」
「そうですか」
「病み上がりなんだから、あまり動かないで下さいね」
看護師は言うと去っていった。
大道寺は横になった。
『あなたのこと、なんて呼べばいい? 私のことは聡美でいいわ』
「大道寺……ってか、聡美って私と一緒なのよね」
『そうなんだ』
「で、鬼って?」
『よくぞ聞いてくれました! 鬼とは、悪霊を浄化したり、死してこの世を彷徨う霊をあの世に成仏させるのが仕事なの』
「ふーん」
『信じてないわね?』
「信じがたいわ。今聞こえてる答えだって、幻聴かもしれないし」
『会話が成り立つ幻聴ねえ……』
「それもそうね。それより、あなたの姿を見せてよ」
『え? 出たら多分、霊体だから見えないし、声も聞こえないと思うよ?」
「私、霊能力あるから」
『それじゃー』
聡美は大道寺の中から出た。その姿は、白黒の横縞の体に端正な顔立ちだった。
「イメージと全然違うわ」
「どう言うイメージ?」
「赤や青で、一本か二本のツノが生えてる」
「それは言い伝えでしょ。本物は違うのよ」
その時、牛型の怪物が現れた。
「イイ匂イがスルナア」
「何こいつ?」
「悪霊よ!」
聡美が先頭態勢になる。
「オ前、鬼カ。ソレは美味ソウダ」
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