能力者

34/37
740人が本棚に入れています
本棚に追加
/216ページ
病室に戻ると姉の汐里は布団をかぶって横たわっていた。 髪の毛が一束、布団の間から抜け出している。 彩香と奏は一瞬顔を見合わせたが、奏の方から視線を逸らした。 そのままベッドまで身体を支えてくれて、ベッドに横たわると布団を掛けてくれる。 「奏さん、お仕事は?」 甲斐甲斐しく面倒を見てくれるところを見ると、人と接する職業だろう。力もあるし、看護師か介護士か。 そんなことを思っていたら、返ってきたのは、 「スーパーの社員です」 という、意外な言葉だった。 「加工食品の担当なので体力はある方だと思います」 ドリンクや調味料、お菓子やレトルト食品、その他さまざまな食品を取り扱っていて、スーパーでも彼女の担当部門の売り上げは大きいらしい。 ピクリとも動かない姉、汐里のベッドの横で椅子に座ってその様子を見つめる彼女は、少しやつれた顔をしていた。 時計を見れば午後8時半を回っていた。もうすぐ消灯の時間。 奏はテーブルの上の飲み物と貴重品の入った金庫のカギを確認すると、膨れ上がった布団にそっと手を乗せる。
/216ページ

最初のコメントを投稿しよう!