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「お姉ちゃん、私帰るね。明日、仕事が終わったらまた来るから、欲しいものがあったら連絡して」
返答もなく、ただビクついただけの膨らみ。
奏は上着を羽織ると、彩香に一礼してから部屋を出て行った。
ふと、彼女…汐里が来てからの一連の行動を思い出す。
一度も顔を上げようとはしなかった。奏が手渡そうとした未開封のガーゼの袋を手で払い落し、ベッドに崩れ落ちたあの姿。
ほとんど顔を上げなかったからあまり良く見えていなかったが、身体中のあちこちに切り傷のようなものがあった。
両手も包帯でぐるぐる巻きにされていたし、入院した理由は外傷が原因だろうか。それとも精神的なものか……。
恐れているのはおそらく……。
彩香がむくっと身体を起こすと、正面のベッドに横たわっていたはずの汐里も身体を起こした。
お互い視線が合ったが、汐里はすぐに逸らした。
「あの」
彩香が声を掛けると、汐里はうつむいたまま
「なんですか?」
と、返してきた。
どうやら会話はできるらしい。
少しずつ彩香の予想が確信に近づく。
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