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chapter 1.炎の記憶
鼻の奥を突く血の生臭い匂いと、灰に思い切りむせた。
今まで生きていた“人”が“モノ”に成り果てて、血を流しながら無残に転がっている。自分の目の前で既に動かなくなってしまったのは母だった“モノ”だ。
「うぅ…うぁ…」
何があったのかよく分からない。途中から頭が考えるのを止めてしまったから。
でも、なんでだろう?涙が止まらない。乱暴に袖で拭うと嗚咽をこらえ、小さな少女は辺りを見回す。
絶望そのもののような一面赤い景色に、更に鮮烈な赤い血が彩りを添えている。
どうして……?
何度も何度も繰り返す。
この人たちには未来があったはず。なのに、時間は止まってしまった。わたしがいけないの…?
「そうよ。あなたが生まれて来なければ誰も死ななかった」
赤の中に一点、暗い影が射す。
「あなたは私達…いえ、世界の脅威になる。本来はヒトに与えられざるべきその力」
その影は黒紫を基調としたローブを纏った女の人だった。炎を写した灰色の髪がまるで炎そのもののように風に煽られ、緩やかに靡く。
少女にゆっくりと近付き、その手を前に向ける。
「恨むなら、自分自身を恨んでちょうだいね」
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