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バタバタと座敷を出て、自室に籠る。
荒くなって喉の奥でヒューと噎び泣く様な呼吸に、扉の前で蹲った。
あれ以来真面に会話する事もなく、必要最低限の接触で済む様に自室に籠っていた鈴悟は、自宅に帰る前に「悪かった」と零した茨に胸の辺りがチリチリ痛む。
別に、触れられるのが嫌だったわけじゃない。
それに、体で稼いでいた事を非難したつもりもなかった。
ただ――――お金を払って彼を抱いた人と同じになりたくない。
そしてそれよりもっと嫌だったのは、それをちゃんと伝える事が出来なかった自分の拙い言葉だ。
バレンタインも近くなり、作り置きの焼菓子や準備に残業して貰った夜、鈴悟は意を決して謝ろうと口を開いた。
「あ、あ、あ……あのっ……茨くん……」
「はい? 何ですか、店長」
「あのえとそ、その、この前は……ごめ、ごめん……なさぃ」
「この前? あぁ……気にしなくて良いよ。別にあのくらい普通だし、汚い体差し出してこっちこそ悪かったよ」
「ちがっ、ちがっ……ちがくてっ!! そう、じゃ……」
呼吸が浅くなって、息苦しくなる。
目に涙が溢れて、肩で息をする様な自分が滑稽で、恥ずかしくてどこかに閉じ籠ってしまいたい。
「ちょ、店長?」
「ひっ、あ……な、な、なん、でも……ないっ……」
胸を閉じる様に握りしめた片方の腕を強く引かれて、つんのめる。
「いや、何でもなくねぇだろ! ちょ、えっとどうすんだっけ? あ、えっとぎゅっと……こうか? 大丈夫?」
茨に抱き締められて背中を擦る手が、ビリビリと逆立つ神経を優しく撫でて、鼻梁に触れる茨の首筋の皮膚の甘い香りにくらりと酔いそうだった。
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