81人が本棚に入れています
本棚に追加
「大丈夫だから、俺、怒ったりしてねぇって、な?」
「はっ……はっ……ごめっ……」
「苦しいなら喋らなくて良いよ。ずっとこうしてるから、大丈夫だから」
初めて自分から茨の腰に手を回した。
香苗の時だってそんな事した事ない。
いつもなら棒のように固まって抱き締めて貰えるだけでも有難いと思っていたのに、茨に言いたい事が伝わらないと悔しくて、縋りたいような気になって来る。
「店長、聞いて。店長が俺にチョコレートくれたの、本当はすげぇ嬉しかった。でも、皆に知られたらどっちも苛められんじゃないかって怖かった」
鈴悟は茨の肩に鼻先を埋めて「ふん」と情けない返事を返す。
「あの時俺は、酷い事を言ってしまった。だから、店長には俺を罵倒して罵る権利がある。気にしなくて良いんだ」
「あ、あ、あ、あのっ……ね……い、い、いばら、くん……」
「うん? 何?」
「お、お、おれは……お金で、き、君を抱きたくなくて……その、そう言うのは嫌で、えっと……本当は、こ、こ、こ、んな自分が嫌で……」
情けない。泣きたくないのに、涙が止まらない。
「ははっ、そっか。汚いって思われたわけじゃ無かったなら、良かった。正直、そう思われてたら辛いって思ってたから」
「おもっ、おもっ、おもてないっ!」
「ぶはっ! カタコトなってるよ、店長」
暖かい体から自分の体を離すのが名残惜しかった。
格好が悪いにも程があるけれど、あの頃尖っていた少年が鈴悟の中で溶けて行く。
最初のコメントを投稿しよう!