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茨は鈴悟が対人スキルが僻地底辺と言うコミュ症と童貞を拗らせた二十七歳成人男性となった元凶だった。
「夜、お仕事されているんですか?」
そう切り込んで来たのは今度三人目の出産を間近に控えたバイトの香苗だった。
「まぁ、日雇いですけど……夜間の道路工事とか、清掃とか……時給が良いんで」
「御両親は?」
「いません」
「じゃあ、夜は晴世君、一人なんですか?」
「見てくれる人が誰もいないので……」
小学校の時あんなに大人びていた茨が、とてつもなく頼りなさげに見えてしまう。
歳の離れた弟を抱えて、夜間の道路工事に清掃。
どうしてもその現実は、彼に似合わない。
「あぁ、じゃあ、ここで働くのはどうです?」
香苗のその科白に一番驚いたのは、鈴悟だった。
「バイト代は普通ですけど、その代わり学校帰りに晴世君を預かるサービス付きで」
「ちょっ! 香苗さんっ!?」
「店長、私もうすぐ臨月で産休入るんですよ? 丁度良いじゃないですか」
「いや、あのっ……でもっ……」
「お手伝いしたら、毎日ケーキ食べれる?」
晴世の嬉々とした眩しい円らな眸がこっちを見ている。
「……ええっとですね……」
「店長、ここ、時給いくらですか?」
「はっ……800円です。少ないですよね……?」
「でも、毎日シフト入りますか?」
「あ、えぇ……まぁ……」
暫く考え込む様子を見せた茨は「悪くねぇな」と零した。
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