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それから引き継ぎも兼ねて香苗がいる間に一通りの仕事を覚えて貰うと言う名目で茨は鈴悟の店に通う様になる。
「仕事自体はそう難しくないけど、接客もしないとだから樫山君、頑張ってね!」
「はぁ……。つか、ここの商品は全部あの店長が作ってるんですか?」
「えぇ、そうよ」
「俺、良く見た事無かったけど……菓子って芸術的なんですね……」
「店長は仕事が細かくて、センスもあるから意外と若い女性にも人気あるのよ?」
「へぇ……」
柱の陰に隠れる様にして二人の会話を聞いている鈴悟は、自分のいない所で褒められている事にむず痒くなって赤面してしまう。
樫山茨と言う聞き慣れない名前は、多分晴世の父親の苗字なのだろう。
あの皆の注目の的だった北園茨が、自分の店で働いている。
事も無げに玉砕した初恋の男の子を、従業員として雇っている。
妙な優越感と、正体を伏せている事に対しての罪悪感が腹の中で混ざった。
「あいつは昔から器用だったから――――」
ふと耳に掠めて行った茨の言葉に、鈴悟は目を見開いた。
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