81人が本棚に入れています
本棚に追加
「同級生、でしたっけ? 店長と」
「はい。でも、気付かれたくないみたいですし、黙ってて下さい」
「雇い主の名前を伏せておけると思ってる店長、バカよねぇ。ここはどんな秘密結社だっつの! 店長学校で暗かったでしょう? ふふっ」
ちょ、香苗さんってば! バカとか……。
「大人しくて、窓辺が似合う感じのヤツでしたね。いつもボーっとして、憂いていると言うか……」
「あはっ、薄幸の美少年だ」
「あぁ、そんな感じですね。俺は嫌われてて、だからここに雇って貰えるとは思ってませんでしたけど……」
「嫌われては無いと思うけど? 嫌いな人とは店長、多分喋れないし……」
「俺、昔店長に酷い事したんです。親が離婚してこっちに引っ越してきて……凄く尖った子供だったんですよ。だから素直に人の好意が受け取れなくて……凄く酷い事をした……」
茨の声音が段々と不安なものに変わって行くのが、泣きたくなる様な気分にさせた。
自信に溢れた狼が、突然淋しさに咆哮を上げる様な錯覚を覚える。
大人びていて達観している様に見えた北園茨は、同じ様に歳を重ねて来た鈴悟にとって、人里に下りて甘え方を覚えた狼の様だ。
「悪い事をしたら、謝る! これ基本でしょ?」
「はぁ……でも……」
「まぁ、もう、聞こえちゃってるかもしれないけどねぇ?」
ビクリと肩が跳ねた。
チラリと柱の影から向こうを見ると、香苗がニヤニヤしながらこっちを見ていて、聞かれていると思っていなかったであろう茨は片腕で顔を隠す様にして俯いている。
「あ、あ、あ、あのっ……ご、ごめ……なさぃ……」
「鈴悟……」
名前をポロッと口にして、茨は思い立ったかのように「すみません」と零した。
最初のコメントを投稿しよう!