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二月に入って、香苗が産休に入った。
茨は仕事の覚えも早いし、表情は硬いけど顔が良いので女性客には人気で、今の所何の支障も無かった。
学校帰りの晴世は店に帰って来る様になり、茨はこの環境が有難いと言う。
夜、家を空けなくて良い様になった分、晴世も余り泣かなくなったらしい。
そんな矢先に、茨が無断欠勤した。
真面目に働いていたのに、電話にも出ないし、いつまで待っても店に現れない。
自宅の住所に訪ねて行くべきかどうか悩みつつも開店し、扉を開けた先でべそをかいている晴世に遭遇した。
「うわぁあああん! りんごちゃ……いばらがぁあああ……うわぁああん」
「は、は、晴世くん……? ど、ど、ど、どうっ……!?」
展開に付いて行けない鈴悟は、人目を気にして辺りを見渡す。
たどたどしい晴世の説明を聞く限りでは、眠ったまま茨が動かなくなってしまったと言う事らしかった。
鈴悟は慌てて店を閉めて、晴世の手を引き茨の自宅まで走る。
「い、い、茨君っ! は、は、入りますよっ!」
エアコンも無く寒々しい部屋の隅に、布団に横たわる茨がいた。
真っ赤になって呼吸も荒く、息絶え絶えと言った様子だ。
インフルエンザだったら感染する恐れがあるので、すぐに香苗に連絡を入れたが臨月の妊婦をインフルエンザの危険に曝す事は出来ない。
困って動揺し、どもって何を言っているか分からない鈴悟に、香苗は自分の母親を迎えに行かせると言ってくれた。
泣きじゃくる晴世を宥めて香苗の母親に預かって貰い、タクシーを呼んで茨を病院へ連れて行く。
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