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診断結果は察した通り、インフルエンザだった。
暖を取れない茨の部屋に戻るのも悪化させるだけだと判断して、鈴悟は自分の自宅へと連れ帰った。
「りん……ご……?」
「もう大丈夫ですよ。お薬も貰ったし熱が下がれば、直ぐ楽になります」
首筋に両腕を回して縋り付いて来る茨が、ベッタリくっついて離れようとしない。
「あの、えと……いばらく……ん?」
「……ちょっとだけ、ごめん」
言葉が出ない鈴悟は、ただただコクコクと頷いて両手の置き場を失い、バカみたいに両手を広げて仰け反る。
茨の本意は分からないが、熱の高い茨の体からは雄の匂いが漂っている様で、病人相手に起き出してしまいそうな欲情を必死に堪えた。
この歳まで童貞拗らせてきた鈴悟にとっては、この状況は刺激が強すぎる。
「あ、あ、あ、あ……のっ……いば、いばらっ……くんっ」
「心臓の音……すげぇ……」
「すす、す、すみませっ……」
緊張して手が震える。
泣きたい訳じゃないのに、動揺すると涙が溢れてしまう。
「ごめんな……お前、俺の事嫌いだろ……?」
「えっ!? きら、きら、嫌い? 嫌いって!?」
「俺はお前の事、好きだったよ。なのに、酷い事して傷つけて……ごめん」
思考回路が上手く働いていなかった。
好き? え、好き? 誰が? 誰を? え??? えぇえええっ!?
「だってお前、男が好きだって普通に言って来るんだもん……焦るだろ」
「ご、ごめ……ん。あ、あ、あの時、ま、まだ良く分かってなくて……」
「うん……そう言う、世間ズレしてる所も可愛いよな……」
「か、か、かわっ……!?」
「お前からはいつも甘い匂いがしてさ……。真白で、無垢で、汚れてない感じが凄く綺麗で……俺とは、違う……」
「…………? い、ばら……くん?」
茨は気を失った様に眠ってしまった。
熱が高いせいで、多分思考回路も朦朧としているのに違いない。
あの北園茨が自分を好きだなんて、二十年越しのジョークにしても酷過ぎる。
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