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「社長もそのような計画を立てられていたようなのですが...」
立てたのか。
「黒猫は不吉だからと、会長に反対されてしまいまして」
反対する理由がそこなのか。
ということは、白猫や三毛猫なら許したのか?
会社に猫だぞ?
...もうわけがわからない。
「会長、ですか」
「ええ」
そういえば、社長室にいた秘書のうち、2人が会長秘書だと言っていた。
「うちは代々現場主義の社長が多く、社内の権限はほぼ全て社長が握っているので...」
言いかけて、両手で口を押さえた。
「お飾り同然です」とは、「社内広報部」の社員の前で話すことははばかれるらしい。
個人的には、そのわざとらしいしぐさが鬱陶しい。
「どうぞ?」
「もちろん、社外での業務が多い、お忙しい役職です」
「ええ」
黙り込んだ。今回は私の勝ちのようだ。
お飾りであれ、権力者であれ、その「会長」が一族の誰かであることには変わりないはずだ。
普通に考えて、社長の父親か、先代の兄弟か。
「でも結局、時雨は社内をふつうにうろついていますよね」
「まあ...」
留守になることの多い会長室の改装を反対されたので、放し飼いのままにすることにしたようだ。
あれ、これは単に会長が部屋の改装に反対しただけなのでは...??
「会長は特にそういったことを気にされますので」
「はあ...」
お年を召された方なのかもしれない。
気にする人はとことん気にするだろう。
面倒だし、そんなことを言う気力もなかった。
それに、話がそれた。
「というか、そもそもどうして」
「ほらきた」
黒猫がのんびりとした足取りで歩いている。
2人してその姿に視線を奪われているが、むこうはこちらに目もくれる様子はない。
「先回りしてたんですか」
「ええ、慣れてますから」
そんな格好で、よく胸張って言えたな...。
閑静な住宅街で明らかに目立つ一行ではあるはずなのだが、ほとんど視線を感じない。
それほどここではお馴染みの光景なのかもしれない。
ほとんど人に見られていないのにスーツ姿でいるのは、自分の業務へのプライドの表れなのか。
...ほんとうにそれでいいのか?
「もしかして、いつもこんなことをされているんですか」
「まさか。これでも社長秘書ですから」
他にも人事・経理・商品開発...社内のことはそれなりに任されていますよ。
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