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にぎやかな園児達の声。色とりどりの帽子が駆け回っている。
「...これはアウトなのでは?」
向かいの家の塀に隠れ(るフリをし)て、大の大人2人が、保育園を覗く。
今時フェンスの柵のみだなんて防犯上不用心だと思うが、閑静な住宅街において「そんなことが起こるなんて考えたくもない」心理は、理解できる。
「いえ、違法ではありません」
違法ではないが不適切ーーー。
一時期ニュースを賑わせたフレーズが頭をよぎった。
もっとも、私達が見たいのは、子ども達ではない。
「それにしても、どこに行っても風格のある猫ですね」
今度は保育園の花壇、のレンガの上だ。
優雅に舞う蝶に見向きもせずに、丸くなって目を閉じている。
女の子が一人、熱心に話しかけているのを、黙って聞いているようでもある。
その佇まいは、まるでヌシや長老のようだ。
「まあ、ここにいる保育士よりは古株ですから」
「どういうことです?」
長年のお散歩コースなのか、園長のお墨付きを得ているのか、飼い主が知られているのか。
首輪がついていて清潔感があるとはいえ、それだけでこの場に居座らせてもらえることはできないはず。
「社長がここのOBなんですよ」
ん?
「それ、全然理由になってないですよ?」
「そうですかね」
ペットを連れてくる園児も、普通はいないはずだ。
いや...でもあの家族はわからない。会社に勤めている人間が言うんだ、間違いない。
「そういえば皆さんは社長とは古いお付き合いなんですか?」
20代そこらで「古いつきあい」とは、どこを指すのか。言った後で内心、首をかしげる。
「いえ、多分みんな高校からですよ。学年は違いますけど」
「では、部活動で一緒だった、とか?」
あの雰囲気は、きっとそうだ。
「ええ」
「ちなみに何を?」
「見ての通りです」
華麗にかわされたところで、聞き覚えのあるメロディーが聞こえてきた。
「もうそんな時間ですか」
社内にいると気にはならないが、結構な大音量である。
園庭には、すでに園児の姿は見えなかった。
でも黒猫は、動くことなく目を閉じている。守り神か、と思って、やめた。
♪ でーんでんむーしむーし かーたーつむーりー ♪
決して昼食前に歌う歌ではないだろうが、元気な歌声に耳を傾けているようにも見えた。
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