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しかし、衝撃は来ない。
「おやめください」
うぐっとうめき声をあげたのは、おばあさんの方だった。
目を開けてみると、ガードさんに取り押さえられていた。杖は、松の木の前までとんでいる。
「奥様、お部屋へ」
傍観していたメイド服の女性の一言を合図に、誰もこちらを振り返ることなく中へ引き返していった。
時雨たち《そっち》は任せた、ということか。
「すごい格好ですね」
先に話したのは、向こうだった。
「あなたには言われたくありません」
立ち上がったのを見ると、腹部にべっとりと赤色がついているのがわかった。
...赤?!
「時雨!」
駆け寄ってみても、動いているようには見えなかった。
日の光で、黒い毛が赤に染まっているのがわかる。
「時雨は?」
誰に向けたのかもわからない問いに、答える者はいなかった。
スーツの胸ポケットから煮干しを取り出しても、感動のシーンにはなり得ない。
「紫陽花...」
「え?」
数m先、確かに視線でとらえたのは、大量に植えられた赤い紫陽花だった。
その色で意識したのだろうか。
スカートの裾に触れた右膝が、チクリと痛んだ。
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