推測と答え合わせ

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「物わかりのいい女性(ひと)は好きだよ」 「『部下』、の間違いでは?」 「いや?」 そこははぐらかさなくてもいいはずなのに。冗談くらい、わかる。 「ヒールやめたの?いい脚してたのに、もったいない」 座ったら? と席を勧めてくれたが、そこは部長の椅子だ。 社長が長い脚をくんで座っているのが、私の椅子。 どちらも変わらないので、遠慮なく腰を下ろすことにする。 「それ、セクハラですから」 「だからってスニーカーにしなくても」 パンツスタイルのスーツに、黒のスニーカー。 代金は、絹川さんにならって経費で落とした。実際、落ちた。 「いつ、何をさせられるかわかりませんから」 コーヒーの入った紙コップを手渡すと、 夏にはエアコンをつけよう と言った。 どうやら、息抜きにこの部屋を使うつもりらしい。 「時雨のことは感謝してるよ」 「やめてください。時雨を助けたのは絹川さんと、あのガードさんです」 謙遜でも何でもない。私は何もしていないし、できなかった。 「でも、病院に連絡してくれたんだろう?」 「検索したら、すぐでしたから」 しかも使ったのは、絹川さんの携帯だった。 「今までのようには動き回れないだろうが、たまにはここに連れてくるよ」 結果、時雨は生き延びた。 流血量も多く、一時は危ぶまれたが、その生命力は凄まじかった。 獣医をもってしても、「研究したい」と言わせるほどだったという(絹川さん談)。 だから「エアコン」で、だから。 「時雨が元気そうで何よりです」 「どうも」 絆創膏だらけの手。頬に傷が見えないのは、眼鏡をかけているからだろうか。 「じゃあ、どこから話そうかな」 脚を組み直して、ほこりっぽい天井を見上げる。 懐かしむような表情は、初めて見る気がした。 「祖父と祖母はーーー」 静かなこの空間は、活気づいていく扉の向こうとは、やはり別世界だった。
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