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PCに視線を戻す。
写真で見るかぎりは、こちらの選手の方がまじめな印象を受けるけど。
人は見かけで判断してはいけないと言うが、絶賛売り出し中のスーパールーキーさん(仮名)は、いつか出会った軽い感じのお兄さんと同じニオイがするから嫌だ。
「というか、葵ちゃんもそろそろ書かないと大変なことになるよ」
ここは上司の気遣い?
「...わかってる」
空になった紙コップを握り潰して、ゴミ箱に投げ入れる。ストライク。
まるで拗ねた子どもみたいだ。
ここ最近胃がキリキリと痛むのは、ストレスからか、それともコーヒーのせいか。
わかってはいても、改善しようがないのがさみしいところだ。
「でもこんな紙切れ1枚から、一体私にどうしろと」
「でもまともだったの、これだけじゃない」
そりゃそうだけど ともごもご声にする。
あっさり打ち消してしまうのが、キーボードの入力音。
決して速いわけではないけれど、迷いのないそれが今はすごく羨ましかった。
「私だって考えたかったところだし、ちょうどいいって」
「そうは言うけど、私の初仕事、そんなのでいいの?」
「いいって。大丈夫大丈夫」
ここ2,3日はこんな会話を繰り返している。
気まずさを紛らわせるためにコーヒーを口にする。胃が痛む。
それもこれも、この1枚の紙切れのせいだ。
この社内広報紙に、タイトルをつけることはないのですか?
そもそも、「社内広報紙」とは、社長と社員のコミュニケーションを図るために発行された社内のフリーペーパーである。
呼び方もそのまま「社内広報紙」とシンプルで、文章量もA4用紙で簡素な週刊紙だ。
社長が代替わりしても、(若社長によって)その必要性が声高に叫ばれた。
ついに今春、専門の部署・「社内広報部」が誕生したわけだが、多くの社員にとってその必要性は疑問視されている。
装丁を変えて発行しても関心を呼び込めないのは、仕方のないことだろう。
それでもこの部署がこのビル内に存在しているのは、世襲制の一族経営によるものだろう。
どうであれ、「クリーンな働き方」で儲けはでているのは事実だから、誰も文句は言えない。
そんな「社内広報紙」の軸とも言える、社員の投稿を受け付けるのが「お便りBOX」である。
部長曰く「レシートのゴミ箱」なその中身は、今週は特に酷かったようだ。
大きな原因は異動したての私にあるのだが、それはまた別の話。
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