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説明が長くなったが、こんな紙切れであっても、涙ぐましい努力の結晶、一筋の光明であることに変わりはない。
「そりゃ私だって気にはなるよ?何なの、『社内広報紙』って。広報する気まるでないでしょ!?」
クセのない、鉛筆字を眺める。
小学校の先生が書いたような整った字は、余計に腹立たしさを増幅させる。
「そもそも先代が発行するときに、名前をつけようとは思わなかったわけ!?」
さあ? と首をかしげる。
部長さんだって、私より1ヶ月ほど経験があるだけなのだ。責め立てるところではない。
「私もそう思って何度か社長に提案してみたんだけど、どれも気に入ってくれなかったみたいで」
「社長が自分でつけることはしなかったの?」
頷く。
「わけわかんない」
「でしょ?」
一番張り切っていた社長が、ここにきて尻込みともとれる反応をするのはおかしい。
くそう、自分のコーナー使って偉そうにボーナス増額の発表なんかしやがって。
初めてのボーナスか。何を買おう。
いや、そうではなく。
「で、社長が大切?に拘ってきたのを、私が勝手に決めちゃっていいの?」
念のため確認のメールを社長室に入れてみたのが、先日のこと。
未だに返信はない。
社長なんだから、そこまでの暇もないのだろう。
「あーそれは」
チリン
聞き覚えのある鈴の音がしたと思えば、開けっ放しにしていた窓から風が吹き込んできた。
カーテンがふわりと広がるのを、黙って見ていた。資料が舞うのも、気にしなかった。
そういえば、雨が続く中でこんなに爽やかに晴れたのは、しばらくぶりだ。
「あーネコちゃん」
資料を拾うのもそこそこに、立ち上がった宮地さんを無視して、黒の塊はひょいと外に出てしまった。
久しぶりの晴れの日の散歩を満喫しているように見えた。
「宮地さん、時雨と知り合いなの?」
「しぐれ?」
「さっきのネコ」
窓から身を乗り出して、やけに広い庭を見渡す。
すでにそれらしき姿は見えなくなっていた。すばしっこいヤツめ。
「あのネコ、時雨ちゃんっていうの?」
早々に諦めて、資料を拾い集めることにした。
「...『くん』か、『ちゃん』かまではわからないけど」
社長の愛猫だと伝えると、目を丸くして固まってしまった。
「あの人、あんな図体であんなかわいらしいネコちゃん飼ってるんですか!?」
異論はないが、正直すぎる意見に吹き出したくなる。
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