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想像するだに、ぞっとしない。マックを探し歩く幽霊じゃあるまい。光太郎は、鋼の心臓の持ち主ではない。
「ありがとうございました」
光太郎が妄想にふけっている間も、多田瀬くんは抜け目がない。ミネラルウォーターを一本だけお買い上げになったお客様に丁寧に会釈して送り出す。まったく、どちらが店長だか分ったもんではない。”開業に必要な資金は全て本部が立て替える”、”月額固定給が手に入る”なんて甘い言葉に惹かれてこの業界に安易に飛びこんでしまったが、いろいろ忙しくて、理想の”場所には、縛られてもなるべくアルバイトに任せて肉体的にはなるべくフリーな悠々自適な暮らし”とは程遠かった。
「明日もシフトに入ってましたよね。」
「ええ、最後に稼いでおかないとというとおかしいですけどね」
アルバイトより先に店長が辞めるなんてことにならなくて、本当に良かった。多田瀬くんとの付き合いはこの二年ほどだ。多田瀬くんは、社会人になって大学に入り直し、今春やっと卒業して外資系の会社に就職することが決まっていた。看護婦をしている奥さんも一安心だ。
「卒業年になって、奥さんが稼ぎのことを言い出すようになりまして。奥さんの夜勤があるから、交代で夜に子供の面倒を見られる今の生活が理想だと思うんですがね」
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