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レティシアはこう言うと跳躍し、自動車や街路樹、建物の窓やバルコニーを巧みに使って屋根の上にのぼった。
ここからは屋根づたいにのアジトまで戻る。
身軽さはレティシアの卓越した能力のひとつだ。
屋根の上から見るパリの街は美しかった。
いくつもの橋がかかるセーヌ川。
シャンゼリゼ大通りの先にある凱旋門。
そびえ立つエッフェル塔。
オペラ座やノートルダム寺院。
目を凝らせばブローニュの森が見える。
レティシアはパリの街を愛していた。
今、手にしている〝ナイルの瞳〟も美しかったが、パリの街はそれ以上に輝いていた。
「この街は手に入れることができないのよね。ていうか、この街があれば、どんな宝石も美術品も必要ないんだけど」
目の前の風景を見ていると、レティシアはこんなことを考えてしまう。
それからしばらくして異変が起きた。
アジト近くの路地に降り立った時のことだ。
前から2台、後ろから1台の自動車がやって来て、道をふさいだ。
偶然ではなく、意図的なものだとすぐにわかった。敵意も感じる。
レティシアは身構えた。
車から男たちが出て来て、銃を取り出した。
ここは前進。
男たちの態勢が整わないうちに突破する。
前進を選んだのは、前の男たちがもたついていたからだ。
後ろの男の数はふたりなので、銃弾が当る確率も少ない。
だが、それは予想外の所からやって来た。
プツン!
首筋に何かが刺さって鈍い痛みを感じた。
意識が遠のき、足もとがふらつく。
おそらく麻酔針だろう。
針の飛んできた方向に目をやると、建物の3階の窓から小型ライフル銃を構えている男の姿が見えた。
続けて別の方向から麻酔針が飛んできて、今度は太ももに刺さった。
三段構えとはなかなか手が込んでいる。
こんなことをするのは、いったい何者だろう?
レティシアは意識を失い、そのまま倒れた。
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