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齢八十九の秋。
彼が一番好きだった、太陽の光がいちばん強くて透明な季節。
「すこし休むよ」と、いつものように日曜日の午後、僕の目の前で横になり、夕方一緒に買い物にでも行こうと肩をたたいたら息をしていなかった。
本人には予感があったらしく、葬儀が終わるまでの間、僕が手続きに煩わされることはほとんどなかった。
写真を雑多に放り込む用の菓子の缶を開ければ、遺影にぴったりの写真が一番上に置かれていたし、金も手間もかからない葬儀のパンフレットが電話の横に立てかけてあり、その中には彼が親しくしていた人たちの連絡先のメモが挟まれてあった。
僕も三十八の大人であったし、それだけの用意がされていれば充分すぎる程だった。
狭く深く人と交友していた父の葬儀は、嘘っぽさや白々しさとは程遠い、よいものだった。
連絡先のメモに親類がほとんどなかったのも、父らしかった。血の繋がりの有無よりも、その人自身と気が合うかどうかを重視する人だった。
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