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「……俺はさ、中卒で働き始めただろ。入社して真っ先に前田店長から『手に職さえ付けておけば、どこでだって生きていける』って言われて、役に立ちそうな資格を取らせてもらったり、修理のやり方だって、全部前田店長から叩き込まれたんだよ」
「……そう、なんすね」
「それにしてもお前、現役工学部生のくせに家電の修理ひとつできないのか?」
あきれ顔の佐久嶋さんに、「だって、……俺建築が専攻だし、」と言い訳するも、鼻で笑われてしまった。
猛烈な恥ずかしさに襲われて、しょんぼりと項垂れた俺を見つめて、佐久嶋さんがふっと笑った。
「お前はまだ若いんだから、これから伸びて行くんだろ」
「そんなっ、五歳しか違わないのに、年寄りみたいなこと言わないで下さい」
そう、佐久嶋さんとの年齢差はたったの五歳だ。
それなのに、人生の経験値があまりに違いすぎて、そこが悔しくて、もどかしいのだ。
佐久嶋さんは若い頃から苦労して、努力してきた。そうして得た経験が、容姿のうつくしさだけでは到底表現し得ない味わいや深みを醸し出している。
それに比べて、自分はなんて薄っぺらい人間なのだろうと、これまでことある度に思い知らされてきた。
しかし、こうして項垂れているだけでは、一生ぺらぺら人間のままで終わってしまうのだ。
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