3 藤野

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 N駅に着いたのは待ち合わせ時刻の五分前だった。  辺りをきょろきょろと見回すも、佐久嶋さんの姿は見あたらない。  全速力で走ったせいか、緊張のせいか、心臓がうるさくてたまらない。落ち着け落ち着け、と深呼吸を繰り返す。  同じく待ち合わせだろうか、隣に立っている女子高生が訝しげにこちらを見ている。  俺は深呼吸しているだけであって、決して息が荒い変質者ではない。あんまりじろじろ見られるのでいたたまれなくなってその場から移動しようとした、その時だった。 「どこに行くんだ?」  背後から、肩を叩かれた。振り返ると、そこに佐久嶋さんが立っていた。  スカイブルーのTシャツが目にまぶしい。昼間、教室の窓から眺めた空と、同じ色をしている。 「……佐久嶋さん!」  本当に来てくれるなんて思っていなかったから、信じられなかった。嬉しくて、思わず佐久嶋さんに両腕を伸ばすと、思いきりかわされてしまう。 「うわ、信じらんねえ。本当に本物の佐久嶋さん?」とうわごとのようにつぶやく俺を、佐久嶋さんはあきれた顔で見つめている。 「お前が毎日念仏みたいに約束約束ってぶつぶつ言うから、来てやったのに」 「いや、夢見てるみたいです。嬉しいっす。もし夢だったら醒めてしまわないうちに、さっさと行きましょう」  俺は佐久嶋さんの腕を強引に掴んだまま、足早に歩き始めた。
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