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俺は立ち止まる。佐久嶋さんは歩みを止めない。ふたりの距離が、離れていく。
「こないだ言ったこと、あれ、本気ですから!」
二十メートルくらい離れたところで、俺は叫んだ。
「ノー」
「……え?」
「さっきの答え。これでおしまい」
その言葉に、俺は走り出す。佐久嶋さんの前で立ち止まり、手首を掴んだ。
「俺のこと、嫌いですか?」
「お前、こないだ見たんだろ」
佐久嶋さんが俺の目をじっと見据える。
「ヒマな大学生なんかに、構っていられない。分かったか?」
そう言って、俺の手を振り解く。
「今夜の定食、うまかった。ありがとな」
じゃあ、と言って踵を返した佐久嶋さんの腕を、もう一度掴む。
「わかりました」
「……わかったのはいいから、手を離せ」
「だから、佐久嶋さんの邪魔をしなければいいってことですよね。邪魔さえしなければ、会うのは構わない、そういうことですよね」
「……は?」
「そういうデートの仕方、考えておきます。あ、大事なこと忘れてた。連絡先教えてください」
「絶対に断わる」
「そんなつれない態度取らないでください。そんなこと言われると、また俺佐久嶋さんのこと、脅迫しちゃいますよ」
「……」
「まじで殺したくなる」とぶつぶつつぶやかれながらも、俺は首尾良く佐久嶋さんの連絡先をゲットしたのだった。
最初のデートとしてはまずまずの出来だと思う。
帰宅してから早速「今夜はありがとうございました。めちゃくちゃ楽しかったです。次のデートが楽しみです! おやすみなさい」と送信した。
どんな顔して、俺からのメッセージを読んでいるのだろう。
しかめっ面? それとも、すこしだけ笑ってる? あ、実はもう寝てたりして。
そんなことを考えながら、にやけた顔で、いつまでもスマホの画面を眺め続けていた。
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