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それから一時間も経たないうちに、小さなちゃぶ台の上にずらりと皿が並んだ。
こんな光景も久しぶりで、俺は自分の部屋なのに落ち着かなくて、無意味に指を組んでは離すを繰り返していた。
「あったかいうちに、早く」
藤野に促されて、俺は箸を持つ。目の前に並ぶ料理から、食欲をそそる匂いが漂ってくる。
「いただきます」
軽く手を合わせて、俺はつやつやと輝くチンジャオロースーに箸を伸ばした。
「……口に合います?」
心配そうに藤野が俺の顔をじっと見つめる。
「……うまい」
「やった!」
俺の言葉に藤野の表情がぱっと明るくなる。
ああ、この顔。絶対に知ってる。さっきから心がざわついて止まらない。それなのに思い出せなくて、悔しい。
「たくさん食べて下さいね!」
テーブルの上にはほかにご飯と、卵とわかめのスープ、春雨とささみのサラダ、春巻きが並べてある。無言のまま、次の皿へと箸を伸ばす。
「サラダ、どうです?」
「うまい」
「スープは?」
「うまい」
「春巻きは?」
「……これ、俺好きだ」
「それじゃ、次回も作ります!」
ガッツポーズで叫ぶ藤野は、踊り出しそうなくらい嬉しそうだった。そんな藤野を見つめていたら、「なんですか?」とこれまたきらきらとした笑顔で見つめ返されて、俺は慌てて目を逸らした。
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