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半分眠った佐久嶋さんを揺すり起こしながら、佐久嶋さんのアパートまで辿り着く。木造の、ずいぶんと古めかしいアパートだった。ほかに住人がいるのかは分からないくらい暗く、ひっそりと静まり返っている。
佐久嶋さんのジーンズの後ろポケットを探り、鍵を開ける。真っ暗な玄関で、手探りでスイッチを探して点灯した。
昭和の香り漂う風情の室内だった。中は案外広々としていて、入ってすぐに六畳ほどのダイニングキッチン。右手にトイレとおそらく風呂場。靴を脱いで、ガラス障子の向こうの奥の部屋へと進んだ。
薄暗い部屋には、ベッドが置かれていた。慎重に支えながら、ゆっくりと佐久嶋さんを横たえる。靴を脱がせ、身体にタオルケットを掛けた。
ベッドの端に座る。佐久嶋さんを倒さないように、ずっと腕に力を込めていたから、ひどく痺れている。ぞわぞわとしてきた腕を振りながら、ベッドのすぐ側の机の電気スタンドを付けた。角度を変えて、佐久嶋さんに直接当たらないようにする。
机の上に無造作に置かれた冊子や本に、ふと目が止まった。
「……これ……」
しばらく見つめて、顔を上げた俺は、思わず息を呑んだ。
立ち上がり、その棚へと、近づく。
「……すっげ……」
この時俺は、佐久嶋さんの秘密を知ってしまったのだ。
そして佐久嶋さんに恋に落ちたのも、まさにこの瞬間だった。
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