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ベッドサイドに座る俺の足元に、藤野は正座して座っている。足ぐらい崩せよと促すも、いえいえお構いなくと言いながら、にこにこと犬みたいな人懐こい笑みを浮かべていた。
「水、持ってきましょうか?」
空になったグラスを俺の手から奪い、立ち上がろうとする藤野の肩を押さえて、制止した。
「さっきは殴って、悪かった」
いくら記憶にないとは言え、アパートまで送ってくれた藤野に襲いかかったのは、明らかに俺が悪い。頭を下げると、藤野は首を横にぶんぶんと振る。
「こちらこそ、すんませんでした。本当はそのまま帰ろうと思ったけど、佐久嶋さん顔色悪いし、夜中急に具合悪くなったらって思ったら、心配でつい……」
「昨夜はほとんど寝てなくて、苦手な酒飲んだから、ぶっ倒れた。もう平気だ。それより……」
「はい」
「見たよな?」
敢えて何を、とは口に出さなかった。しばらくの沈黙の後、藤野が「……すんません」と弱々しく答える。
「いいか。ここで見たことは誰にも喋るな。一切口に出すな。っつーか、今すぐ頭のなかから消し去れ」
俺は藤野の目をぎっと見据えて、言い放った。
「分かったか?」
「どうして本当の理由を話さないんですか?」
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