2 佐久嶋

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2 佐久嶋

   目が覚めたら、ベッドの上に仰向けに横たわっていた。  頭がズキズキと痛い。アルコールにはとことん弱い体質で、三口で意識を失うレベルにもかかわらず、飲んでしまったせいだ。  三ヶ月に一度開催される職場の飲み会には、参加しないと決めている。  酒が飲めないし、そもそも人と喋るのも、賑やかな場所も苦手なのだ。  唯一忘年会だけは、仕事の一環だと割り切って参加するが、それでも車で来たからと言ってウーロン茶しか飲まないし、無言を貫く。  今回もまったく気乗りしなかったが、前田店長から直々に誘いの電話が掛かってきたから断わる訳にもいかず、やむなく参加したのだ。  しかも隣に座ったパートのおばさん連中に長期休暇の理由をしつこく詮索されたから、たまらず目の前に置かれたグラスのビールを一気飲みして、便所に行ってきますと席を立った。  と、そこまでは憶えているが、その後の記憶が一切ない。  上半身だけ起こしたら、こめかみに鋭い痛みが走って、俺は頭を抱えた。  ひどく喉が渇いている。水を飲もうとベッドから下りて、一歩踏み出した、その時だった。  なにかを踏んづけたと思った瞬間「ぐえっ」という、ヒキガエルの鳴き声ような呻き声が足元から響いてきて、俺は思わず後ずさりしてベッドに飛び乗った。  慌てて机の電気スタンドを付けると、そこにやたらにでかい男が寝転がっている。 ぎょっとした俺は、咄嗟に大男に飛びかかった。 「誰だてめえ!」  大男を押さえつけ、馬乗りになって腹にパンチを食らわせる。大男の腹は硬く、渾身の力を込めて殴りつけたにもかかわらず、拳が食い込まない。大男は「うっ」と一瞬呻いた後、「ちょっ、佐久嶋さん!」と叫んだ。  名前を呼ばれて、我に返る。さっきは腕で覆われていた顔が、はっきりと見えた。 「お前……なんで?」  
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