第1章

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「死んだ者を悪くいうのは良くないのですが、都築は参列者達と違法な取引をしていたようです」 「ほう、どんな?」 「クローン人間の売買です。依頼者の細胞から脳のないクローンを作り出すんです。そして薬やら、素人(しろうと)には思いもつかない技術やらを使い、数週間で依頼者と同じ年令まで育てる。そして空っぽの頭に依頼者の思考パターンを組み込んだ機械を入れるんです。いわば、もう一人の自分を作る」 「医療用に、移植のための臓器を作ることはできても必要のない全身の複製は禁止されてるぞ」 「だから違法って言ったでしょ。故人はそうしてできた依頼者の偽物を本人に高値で売り払っていたようです」 「しかし、自分の偽物なんて何に使うんだ?」 「コピーロボットって知りませんか? 昔の漫画に出てくるですが。やりたくない仕事を自分の代わりにこなしてくれる存在ってのは不変の欲望だと思いますが」 「あの……」  死体を調べていた鑑識が、ためらいがちに声をかけてきた。 「被害者の数、もっと減りそうです。この参列者、全員そのクローンでした。おそらく、葬式で火事になる、なんて事態はAIに想定されていなかったのでしょう。それとも、熱か煙で異常が出て、正常な行動ができなかったのかも。結局、何か問題があって逃げられずに焼かれたんですよ」  堀内の耳には言葉の前半しか届いていなかった。 「じゃあ、何か。この葬式会場には生きている人間は一人もいなかったのか。死体と、坊さんのロボットと、機械仕掛けのクローンと……」 「都築博士はそうとうみんなに慕われていたようですね」  木原は皮肉気に言った。 「顧客の誰一人、自分自身で足を運ばず、ごまかそうとしたのですから。もっとも、自分が作った者をしっかり使ってくれたのだから、ある意味本望だったのかも知れませんが」
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