心の声

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 男の行動の理由は理解できないが、その心の声は強くなり、今では同じ駅の構内にいるだけで、姿が見えなくても響いてくる程になった。それがどうしても苦痛で、耐えきれなくなった俺は、時間も体力も使うのを承知で、最寄りから一つ先の駅を利用することにした。  その日もその日、いつもの駅で事件が起きた。  通勤ラッシュの真っ最中、一人の男が突然刃物を振り回して周囲に切りかかり、多数の死傷者が出たのだ。  もしやと思ったが、案の定、ニュースで流れた犯人は俺が不快に思い続けていたあの男だった。  日々大きく深いに響き渡っていた、あの男の心の声。それはついに狂気の行動として解き放たれてしまったらしい。  事件の後、当然だが男の姿は駅から消え、俺は元通り最寄り駅を使うようになった。  そんな今も、ずっと周囲の嫌な心の声は聞こえ続けているけれど、最近はなるべくそれらに耳を傾けるようにしている。  他人の不満が聞こえるなんて嫌な能力でも、おかげで救われた前例があるからな。  聞き流せない程の負の声が響いたら、それを発している相手に近寄らないようにする。そうすれば多分安全を確保できる。  こんな不快な思いを毎日する以上、そのくらいの役得的なことがないとやってられないよ。 心の声…完
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