60人が本棚に入れています
本棚に追加
三島君が転校してきてから、
私の毎日は変わった。
たったひとりの空間だった朝の列車は
ふたりの空間となり、
心細い帰りの列車も心細くなくなった。
彼は基本的にほとんど自分からしゃべらない。
でも、私から話しかければちゃんと答えて
くれる。
好きな食べ物、好きなアーティスト、
よく見る映画、得意科目。
2週間かけて色んなことを聞き出した。
相変わらず、クラスメートとの会話は
皆無だが。
しかし、その無口で寡黙な性格と、
高身長というルックスも相まって、
昼休みになると、多くの女子生徒が
彼に連絡先の交換を迫りに来る。
が、未だに連絡先の交換に成功した
生徒はいない。
私を除いて(笑)
彼の特徴はそれだけではなかった。
ある日、私は料理の最中に右手を
切ってしまった。
(私は左利きなので、包丁は左手で持つ。)
すると次の日、彼は私のケガとその理由を
1発で見抜いたのだ。
「昨日、包丁で切っただろ?その右手。
痛くないか?」
「え?何でわかったの?」
「お前、昨日親いないって
言ってただろ?大方、夕飯を
作ろうとして慣れない包丁で切った。
まあそんなところか。」
的中だった。
三島君は人の話を記憶する能力と、
洞察力、推理力がずば抜けているらしい。
私が美容室に行った次の日も
彼は朝一で気づいてくれた。
だれかが見てくれている。
それがこんなに嬉しいことだとは
私は今まで知らなかった。
最初のコメントを投稿しよう!