第1章 転校生

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そんな父と私が最後に会ったのが 小学6年生の秋。ちょうど私の誕生日だった。 お盆以外はまったく顔を見せない父が 私の誕生日に現れるなんて珍しいと思った。 「大きくなったなぁ、星菜。 今日は誕生日プレゼントを持ってきたんだ。」 父がカバンから取り出したのは 黒い光沢のある見たこともないような輝きの石。 石にくくりつけられている紐を私の首の後ろで結んでくれた。 「これはな、南アフリカに落ちた 彗星の一部でな、父さんの大事な思い出が たくさん詰まっているんだ。 だから、これを父さんだと思って これからも頑張るんだぞ。」 そう言って父は大きな手で私の頭を 撫でた。 「バスケシューズのほうがよかった」という 口からでかかった言葉は飲み込むしか なかった。 その1ヶ月後、父は帰らぬ人となった。 母からは一言、"交通事故"とだけ知らされた。 マスコミでも詳しい状況は報道されなかった。 結局私は父の死の真相を何も知らないまま、 中学生になり、卒業後、 母と同じ高校に入学した。 この地区からうちの高校―海北高校―に 通う生徒は私ひとりだけ。 午前7時半にこんな田舎路線の普通列車を 使う人なんているわけがない。 静寂と孤独に包まれた車内で、私は 朝の40分間を過ごす。 すでに東の水平線から南の空に駆け上がろうと する太陽の柔らかな日差しを浴びながら、 誰にも邪魔されることなく、本を読む。 私はなんだかんだ言ってこの自分だけの 空間を気に入っていた。
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