第1章 転校生

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駅を出て歩くこと10分。 海がよく見える海岸線に 私の高校がある。 築50年の年季の入った校舎。 1年前に耐震補強と防火設備の更新が 行われ、内装は幾分か綺麗になったが、 外観はそのままだ。 グラウンドに目をやると、朝練を終えた サッカー部が汗だくになりながら 校内に引き上げていた。 1年前の自分を思い出して少し羨ましく 思った。 階段を4階まで上がって2-2と書かれた 教室のドアを開ける。 ほとんどのクラスメートが既に登校していて、 友人との会話に花を咲かせていた。 なんら変わりない、いつもの光景。 私たちの高校はクラス替えもないため、 メンバーも同じだ。 「おはよー」 「おはよう。ねぇ、聞いた?うちのクラスに 転校生が来るんだって!」 「え?本当に?」 これには驚かされた。 こんな田舎の高校に転校してくる人が いるなんて、思いもよらなかった。 どんな人だろう?イケメンだったら ちょっと嬉しい。 「よし、お前ら席に着け。」 担任の細野先生がやって来て、 朝のおしゃべりタイムは終わった。 細野先生は20代後半の若い男の先生で、 冬はいつもお洒落なセーターを着ている。 担当科目は数学。とても話しやすい先生で、 生徒からの人気も高い。 独特の足音を発てて歩くので、 他の先生とすぐに区別できる。 噂によれば、 ファンクラブも非公式に存在しているようだ。 私の好みではないけど。 「もう知っている者もいると思うが、 今日からこのクラスに新しい仲間が 増える。皆、仲良くするんだぞ。」 「先生、女の子ですか!?」 「可愛いですか!?」 男子が一斉に質問の集中砲火を 浴びせた。先生はもう慣れたと 言わんばかりにそれらをかわす。 「コラコラ、女の子とは一言も言ってないぞ。」 「え?男かよ?」 クラス中の男子から、落胆のため息が 漏れる。先生はガン無視して話を進めた。 「いいぞ、入ってきてくれ。」 ドアの向こうから現れたのは、 背の高い青年。 それが、私と彼、一翔との最初の 出会いだった。
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