ガソスタらぶ

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 バイトの終わる深夜零時、十分前。清水先輩の車がゆっくりスタンドへ入ってきた。  否応なしに気分が弾む。だって、清水先輩は俺のためにこうやって来てくれてるんだ。  新しいタオルを手に先輩の車を迎えた。 「いらっしゃいませ! もう直ぐなんで。先輩の車拭き終えたら帰る準備しますね。あ、ゴミとかあります?」 「大丈夫だよ。慌てなくていいからね」  清水先輩が車から降りてガソリンを入れる。大学にいる時より更にカッコ良く見えるのは服装が大人っぽいせいだからかな。 「じゃあ、あとで」  ペコッと頭を下げ事務所へ戻り、パソコンの勤怠表を出しておく。あと三分で上がりだ。トイレでしっかり手を洗い、鏡で一応髪を整える。それからつなぎを脱いで服へ着替え、十二時回ったのを確認して退勤ボタンをクリック。ウキウキしてる俺。誕生日を祝ってもらえるのってやっぱり嬉しいもんなんだな。 「お待たせしましたぁ」 「お疲れ様」  車に乗った途端、先輩が後部座席へ腕を伸ばす。なんだろうと思った次の瞬間、目の前に現れたのは黄色や白色のバラが入った花束。 「はい。お誕生日おめでとう」 「わっ! ビックリしたぁ。凄い、花なんて貰ったの初めてですよ」 「ちょうど日付変わったからね」 「ありがとうございます。へぇ、花束ってなんだかすごく特別な感じしますね。嬉しいです」  手の中にある花束を見ながら自然と頬が緩む。正直お花なんて女性が貰うもので、やっぱり花より団子の方がいいに決まってるなんて思っていたけど、前言撤回ならぬ全言撤回。だって素直に嬉しいって思う。 「喜んでもらえると贈った方も嬉しいから。プレゼントっていいよね」  清水先輩はサラリとかっこいいコトを言って車を出す。ごもっとも。俺は声を大にして高らかに言ってやりたいよ。全世界に向かって。 「今日は大人なバーへ連れてってあげるよ」 「前回のダイニングバーも大人な感じでしたよね。それよりもってこと?」 「そう。特別な夜だからね」 「へぇ~、うん。楽しみ」
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