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カウンターの中にいた笹原さんは窓の外へ顔を向けた途端、新しいタオルを掴みちょっと駆け足で車に近寄った。
「むむ」
中から出てきた人は背の高い細身のスタイリッシュな服装の男。オシャレでイケメンだ。笹原さんの顔は心なしか機嫌が良さそうで、男に可愛らしくニコッと微笑みかけて窓を拭き始める。いつもは給油中の車の窓拭きなんてしない。
笹原さんの特別な人間なのだろうか……。
男はガソリンを入れながら笹原さんに優しい眼差しを送り話し掛けている。応える笹原さんも楽しそう。
「むむむ……」
笹原さんは車を最後まで誘導して、行儀よくお辞儀して車を見送った。タオルを使用済みボックスに入れ店内に戻ると、笹原さんはカウンターの中へ引っ込み何事もなかったように仕事を始める。
「……笹原さん」
「なに?」
パソコンのデーターを見つめたまま応える。こちらを見もしない。
「今の人、笹原さんのなんですか?」
「先輩」
「……そうなんですか。大学の?」
「そうだよ」
淡々と業務を続けながら返事をする。
さっきはあんなにニコニコしてたくせにツンなんだから。
「笹原さん、今日、上がったら飯行きません? 俺、腹減っちゃった」
「用事あるから無理だな」
顔色一つ変えず笹原さんは素っ気なく言った。だから徒歩なんだ。誰か迎えに来るってことか。
「そうなんですか。誰と?」
「剛田君には関係ない人だよ」
「デートっすか?」
「まぁ、遊びに行くって事」
「デートなんですね?」
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