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着替えた笹原さんが店から出てくる。元気のない疲れた様子で車に歩み寄ると運転席から男が出てきた。「おつかれ」とか声をかけながら笹原さんの肩を抱き、助手席にエスコートする。
笹原さんはしょんぼりしたまま頷き、車に乗り込んでしまった。立っている俺に気づいてないのか、あえて無視してるのか。
俺はその車へ近寄り、助手席の窓をコンと軽く叩いた。車内から恨めしそうに見上げる笹原さん。上目遣いもかなり可愛い。大学の先輩とやらが「お?」と俺を見て窓ガラスを下げた。そいつに軽く頭を下げる。
「すみません。ありがとうございます。笹原さんお疲れ様でした。おやすみなさい。また明日よろしくお願いします!」
「お疲れさま」
一言だけ発し、そのまま前を向いてしまう。心なしか、口が尖ってる。眉を寄せて拗ねてるような顔。可愛くてシュークリームみたいなほっぺを指で軽くツンツンと突いてみた。
パッとこっちを向き、「何てことするんだ」ってビックリした顔。笹原さんは狼狽したようにぎこちなく言った。
「き、気をつけて……清水先輩、出してください」
大学の先輩は清水って言うのか。
「笹原さん、おやすみなさい」
静かに閉まる窓が俺と笹原さんを遮っていく。
俺は姿勢を真っ直ぐに伸ばし一歩下がると、動き出す車を見送った。バイバイと手を振る。笹原さんを乗せた車のテールランプが見えなくなるまで手を振り続けた。
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