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「あ……」
助手席から笹原さんが降りた。ドアを閉めると屈んで窓の外から会釈をする。笹原さんはアパートの階段を上り、車はスーッと走って行った。
「……笹原さん」
俺は偶然会えたのが嬉しくて、思わず階段の下から声を掛けた。
帰ってきたのも凄く嬉しかった。食事に行ってこの時間に送ってもらったのなら……付き合ってないってことだよね?
俺の声にパッと振り返った笹原さんの驚愕の顔。口がポカンと開いてる。固まってる笹原さんへ笑顔で話しかけた。
「あは。俺も今帰りなんです。結局同じくらいになりましたね」
「なにしてんの?」
笹原さんは一気に顔を曇らせる。
「なにってその……」
「なんでこんなとこに居るんだよ。待ち伏せとかヤバ過ぎでしょ。だいたい、普通今日の見たら誰だって脈なしだって諦めるはずだろ! だからわざわざ先輩にお願いしっ……」
静かに話していた笹原さんは、だんだん怒りに任せ捲し立てた言葉を自らピタッと止めた。かと思うと、俺の目を捉えたままみるみるマズイって顔に変わっていく。俺は階段を一段ずつ上り、笹原さんを見上げる位置で足を止めた。
「それホント?」
笹原さんが片足を上の段にかける。
「な、なにがだよ」
「わざわざ頼んだの? デートのふりしてくれって?」
大事なことだからちゃんと確認しておきたい。笹原さんが上に一段上がるのを見て、俺も一段上がった。手すりを支えにして、バックのまま更に一段上る笹原さん。俺もゆっくり上がる。
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