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「だ、だって……へんなこと言ってくるし……」
「笹原さん……」
「うわぁ」
俺は階段を登りきる前の笹原さんを引っ張るように捕まえ、落ちてきた身体をギュッと抱きしめた。
華奢な身体はすっぽりと腕の中に収まる。ちょうどいいサイズだ。めっちゃフィットしてる。
「ちょっと! 放せよ!」
一瞬おとなしかった笹原さんが腕の中でもがきだす。
「やだ。あ~……ホッとした。良かったぁ」
更にギュウウと抱きしめて、腕の中のぬくもりに頬を擦り寄せた。笹原さんは顔をイヤイヤと振り腕から抜け出そうと必死に暴れている。
「やめろって、なんなんだよ! もー!」
「笹原さんが悪いんだよ。純真な心を弄ぶようなことするから。俺もぉ失恋確定だって、閉店するまでひとりでヤケ食いしてたんだもん。あそこの店、価格設定が安いから助かるよね。ヤケ食いしたけど三千四百円で済んだ」
「そんな話どうでもいいから、もう放せって」
「離さない。それより、笹原さんがあの先輩と付き合ってなくてマジでホッとした」
俺は笹原さんを抱く腕に力を込めて言った。
「俺、笹原さんが振り向いてくれるまでちゃんと待ちますから、嘘はやめてください」
笹原さんは俺の腕の中でグッと押し黙った。抵抗もなく、もうすっかりおとなしくなった笹原さんは男なのに肉付きもなく華奢で柔らかい。ずっと抱きしめていたいと思った。
「でも、笹原さんが嘘つきでも嫌いになったりしないから安心してください」
「……嫌いになってくれた方がいい」
ボソボソと小さく愚痴る笹原さんはとても頼りない。保護欲を掻き立てられる感じだ。
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