276人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は剛田正広。
身長百八十七センチ。体重七十八キロ。高校まではラグビー部に所属。全国大会も三回出場した。大学進学も「是非うちでラグビーを」と声を掛けられたがすっぱり断り、勉強だけでここ東京の大学へ進学した。
ラグビーは好きだが、選手としての活躍はもういい。俺が大学で目指すのはもちろんキャンパスラブだ。あのむさくるしくて汗臭い男の集団に揉まれる生活はコリゴリ。これからは白くて柔らかくて華奢で可愛い生物と青春を謳歌するのが俺の人生の目標なのだ!
「剛田くん。今日からよろしく。同じ大学で一年先輩の子が一緒のシフトにいるから、彼に色々教わればいいから」
大学へ入学して初の夏休み。俺はさっそくバイトを始めた。実家へ戻るのはお盆だけでいいだろう。あっちでバイトを探すわけにもいかないし。続けられないのも困る。なんといってもキャンパスラブには金が必要だからだ。
「はぁ。大学の先輩ですか」
「そう、笹原……」
店長が顔を上げて、俺の背後を見た。
「おお、ちょうどきた。笹原くん」
店長の声に振り返る。
店の扉が開いてひょろりとほそっこい人間が入ってくる。
「はうっ!」
俺はその瞬間息を止めた。ブカブカのオレンジ色の繋ぎ。細くて白い手。赤いキャップから出た丸くて可愛い耳。一番は白くて小さな顔と、そこに収まっている黒目がちな大きな瞳。小さな鼻。上品な唇。柔らかそうなほっぺ。
な、なんてこった。キャンパスじゃない。俺の理想がガソリンスタンドにいた! なんたる運命のイタズラ!
その子はペコッと首だけ下げ「おはようございます」と小さな声で挨拶した。声まで可愛いじゃないか。女の子にしてはちょっと低いけど。
店長がニコニコ顔で俺に頷いた。
「彼が笹原くんだよ。笹原くん、君の大学の後輩だ。よろしく指導頼むよ。最初の一ヶ月は笹原くんと同じシフト組んでおいたから」
え……彼? 今、彼って言った? 聞き間違いかな? 舞い上がって耳が遠くなっていたのかもしれないな。
俺は人差し指を耳に突っ込み、グリグリとマッサージした。
笹原さんはチラリとこちらに視線を向けて直ぐにまた店長の方を向いてしまう。そのチラ見も凄く可愛い。きっと大きな後輩にビックリしてるんだろう。大丈夫。俺はジェントルマンだから。
「剛田正広です。どうぞよろしくお願いします!」
最初のコメントを投稿しよう!