ガソスタらぶ

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「言ったでしょ? 好きになったらとことんだって。全部好きになっちゃうから。どんな笹原さんも」  俯いたままぷいっと横を向いてしまう笹原さんは耳まで真っ赤だった。 「俺のこと嫌い?」 「もう、うるさいよ」  おとなしかった笹原さんが腕の中で急に向きを変え、階段を這いあがるように上っていく。まだ逃げるつもりなのかと俺も一緒に階段を上がった。 「笹原さん」 「着いてくんなっ!」 「部屋まで送るだけだから」 「もうそこなんだから送らなくっていいって!」  階段を上りきればすぐ目の前にドア。俺は腕を離し、笹原さんの肩を掴むとクルリとこちらへ身体を向け、ドアに笹原さんを押し付けた。見上げる笹原さんへ顔を寄せ唇を塞ぐ。笹原さんは固まってしまったのか、目を開けたままジッと動かない。  顔を離すと、愕然とした笹原さんがワナワナと震えながら言った。 「ま、……また、シタ……」 「逃げるから……つい」  俺は笹原さんをもう一度ギュッと抱きしめた。笹原さんの頭を撫でながら自分の胸へ押し付ける。 「少しでいい。俺のこと好きになって? 笹原さんを困らせたりしない。すげぇ大事にするから」  黙りこくったままの笹原さんがおもむろに口を開き、聞き取れるか聞き取れないかのような声でぼそぼそと言った。 「……少しでいいんなら……友達だったら、別にいいけど」 「うんうん。もう夜も遅いし、笹原さんち泊めて? なにもしないから」  あくまでもツンな言葉。胸がキュンキュンした。唇を寄せると目の前に手のひら。笹原さんは俺の頭を正面から鷲掴みで受け止め、グイーッと押し下げた。 「言ってる尻からしてっらっ! 誰が泊めるか! 帰れっ!」 「え? それ何語?」  笹原さんは俺の問いには答えず、押していた手の甲に更にもう片方の手を添え、俺を両手でグイグイ押す。体格差もあり屁でもないけど仕方なく離れると、笹原さんは素早く部屋に逃げ込んでしまった。まるでリスのような俊敏な動き。やっぱり笹原さんは小動物系だよな。  ドア越しに呼びかけたけど、笹原さんからのリアクションは一切無かった。
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