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誕生日のお祝いかぁ。まさかの清水先輩からのお誘い。乗らないわけがない。……まぁ、わけないっていうか、普段は誕生日やイベントでも一人で過ごすことなんか気にならないんだけど。最近いろいろ慌ただしかっただけに、ギャップというか……調子が狂うっていうか。まぁ、そんなところ。
「じゃあ土曜日、バイト先に迎えに行くよ」
「はい。お願いします!」
一気にモヤモヤは晴れ、スッキリした気分で清水先輩とランチして食堂を出た。
その日のバイトにもやっぱり剛田君の姿は無く、代わりに月曜、火曜、日曜日に主に入る学生バイトの田中君が来ていた。
さらに翌日の土曜日。
バイト先に剛田君の姿も無く、未だ連絡も無い。
俺は若干ムカついていた。
清水先輩は話した覚えもないのに俺の誕生日を知っていた。もしかしたら、自分で気付いていないだけで、何かの会話の時にポロリと話したことがあるのかもしれない。でも、剛田君は違う。剛田君は自分からわざわざ俺の誕生日を聞いてきたのだ。そして俺は言いたくもない個人情報を提供するはめになった。なのに、ヤツは何の音沙汰も寄越さない。電話だって俺からした。「おやすみ」も俺だけ。まぁ、強引に電話を切ったのも俺だけど。なんにせよ、誕生日は明日だ。聞いたくせに知らぬ存ぜぬのスルーは無責任だと思う。
「笹原さん」
「なに?」
「あ、いや。レシートロールの補充用がもうないんですけど」
田中君がおどおどした口調になる。
「ああ、ごめん。取ってくるよ」
事務所の奥の扉を開けながら、つい苛立ちを表に出してしまった自分を「何やってんだよ」とたしなめた。
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