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「俺もそういう趣味はありません。でも笹原さんなら付き合えると思います。いいえ、付き合いたい。誰とも付き合っていないのなら、俺と付き合ってくれませんか?」
俺の剣幕にたじろぐように体を後ろへ引く笹原さん。カウンターに背中がつっかえてる。俺は笹原さんが引いた分だけ前に足を踏み出した。
「つ、付き合ってくれません。何しに来たの? 恋人作りなら合コンに行けよ。場所間違い過ぎでしょ」
「恋に落ちるのに場所は選べませんよね? バイトも頑張ります。でも、笹原さんと付き合えるようにも頑張ります」
「後半はいらない! ってか、そこどいてよ」
俺を見上げる笹原さんの可愛いこと。ツンな態度にまたもや「はうっ!」と心の中で声を上げる。俺は一歩下がって笹原さんの許可を仰いだ。
「これくらいならいいっすか?」
「な、なにが?」
「笹原さんが怖がらない距離です」
無理強いはしない。だって俺はジェントルマンだから。
「もっとだよ。もっと!」
シッシと手で払うジェスチャーをしながら言う。
「マジっすか」
仕方なく、もう半歩下がる。笹原さんはカウンターと俺の間から逃げるように体をずらし、カウンターの中へ入ると裏に引っ込んだ。待っていると、モップを手に持って戻ってくる。
「ひとまず店内のモップ掛けして。外出て左のトイレ横に水道とバケツあるから」
モップを突き出す笹原さん。「はい」と受け取ると、またカウンターの中に逃げ込まれてしまった。なんだかちょこまかと小動物みたいで可愛い動きだ。なにしても可愛いってどんだけ~。
黒いファイルをめくりながら遠くの方でチラチラと俺を伺う。そんな笹原さんはまるで子うさぎみたいだった。
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