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「笹原さん! お疲れ様でした! 一緒に帰りましょう!」
バイトを終え、先に姿を消した笹原さんに追いついて声を掛ける。
仕事中は流石に作業に専念した。でも笹原さんが接客したり、大きな声を出して車を誘導するたびに俺の心はキュンキュンしっぱなしだった。こんなにバイトが楽しいなんて思ってもみなかった。
笹原さんは振り返ると「用事があるから無理!」と早々に自転車にまたがる。
「じゃ、お疲れ、おわっ!」
グンと動き出そうとする自転車の荷台をガッと持ち、それを止めた。
「用事って……もう十二時っすよ? こんな真夜中にどこ行くんですか」
「離せよ。関係ないだろ」
動かないペダルを必死に踏み込み逃げようとする。そのペダルがちっとも動かないのがまた可愛い。
「関係ないことないっす。笹原さんは俺の大事な人なんだから」
「勝手に大事にするな! ただのバイトの後輩だろ」
「でも、俺の中では大事な人なんです。心配なんでこんな夜中にフラフラするのは止めてください」
「もう放っておいてよ。離せってば。ちゃんと家に帰るから」
笹原さんが観念したように言ったから、俺はホッとして荷台から手を離した。
「わっ!」
急に離したからか笹原さんの足が勢い余ってガクンとペダルから落ちた。バランスが崩れグラつく自転車と笹原さん。俺はもう一度、今度は自転車のサドルを掴み、支えた。小さく「うっ」と声を上げる笹原さん。
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