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「なにやってんですか。でも良かった。店長に教えてもらったんですけど、アパートの方向が同じらしいっす。一緒に帰りましょう」
「怖いよ。勝手に人の情報仕入れてんな!」
「だって笹原さんが教えてくれないから」
「教えるわけないだろ。初対面で早々、同性捕まえて付き合えとか言ってくるやつなんかに」
「同性は関係ないっす。一目惚れしたら言うのが男でしょ」
「そんなところで男らしさ感じるとかおかしいし、もっと段階ふ……」
笹原さんは話してる途中で、何かに気づいた様子でフッと顔を背けた。
「なんでもない」
「段階踏めばいいんですね! 分かりました!」
「今、否定しただろ!」
背けていた顔をまたバッと戻し、ムキになった顔の笹原さんの顔面が近い。なんて可愛いんだ。俺は思わず顔を傾けて笹原さんへ寄せた。
「んー」
笹原さんは上半身をひねり逃げながら、俺の額を片手でガシッと押さえた。
「剛田、これのどこが段階だよ」
「あ……すみません。つい。笹原さんがあんまり可愛いから」
笹原さんに触ってもらえたのが嬉しくて、ニコニコしながら顔を離す。
「段階踏みます。大丈夫です」
「そういう問題じゃない。段階踏まれたって絶対無理!」
「あはは。笹原さんて怒ると声が高くなってすげぇ可愛い。とりあえず今日は、アパートまで送ります。変質者とかいたら怖いし」
「おまえが一番怖い」
「またまたぁ~。行きましょう。あ、自転車は俺が押します」
笹原さんを乗せたまま、ハンドルを取り押して動かす。
「ちょっちょっと、なんなんだよ。わっ、降りる、降りるから!」
「大丈夫。乗っててください。足疲れたでしょ?」
「やだよ、なんなんだよこれ」
アワアワと状況に困惑している笹原さんに俺は優しく微笑んだ。
「アパートまで送るだけですから」
笹原さんは困ったように首を竦め俯いた。
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