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笹原さんのアパートは歩いて十五分のところだった。二階建ての建物。淡い黄色の壁には西野ハイツと書いてある。白い階段と出窓、可愛らしい建物。笹原さんのイメージにぴったりだ。しかも俺の住むアパートと目と鼻の先ほどの近さだった。
「ここですか。俺のアパートと近いです。良かったー」
「良くないよ」と呟く笹原さんをよそに、ハンドルから手を離し、一歩下がる。
「俺のアドレス登録してありますよね? 何か困ったことがあったらいつでも連絡してください。直ぐに駆けつけます」
店長から何かあった時のためにバイト同士でアドレスを交換しておけと言われたから、笹原さんのアドレスはゲットできてる。幸先のいいスタートだ。
「わかったから、もう帰れよ」
笹原さんは自転車を駐輪場へ入れながら疲れたように言った。
「分かりました。お疲れ様です。おやすみなさい」
俺はペコッと頭を下げて笹原さんを見送った。部屋に入るまで見送らないと、強盗が一緒に入るかもしれない。世の中物騒だから、ちゃんと最後まで気を抜かないことが大事だ。
笹原さんは階段を上がると「シッシッ」とまた手で払いのける仕草をしながら、部屋へ入ってしまった。最後にツンなところが見えて頬が緩んでしまう。笹原さんの部屋は階段を登ってスグの部屋。二〇一号室だ。覚えておかなきゃ。
俺は閉まったドアに向かって呟いた。
「おやすみなさい。笹原さん」
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