第1章

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凄まじい吹雪で数歩先さえ禄に見えない中、1人の男が地面にしがみつくようにして山を下っている。 「さ、寒い」 今、自分が何処にいるのかさえ分からない。 分かるのは山を下っているという事だけ。 去年の秋、長く連れ添った女房が病死した。 息子達は皆独立してそれぞれ一家を構え、私が住む新宿のマンションから電車1本で行ける都内で暮らしている。 だから、盆暮れはそれぞれの伴侶の実家に里帰りさせていたが、今年の正月は私を心配して、里帰りせず私と共に正月を過ごしてくれた。 来年の正月も共に過ごすと義娘達が言ってくれたけど、其処まで甘える訳には行かないから、年末年始は趣味の登山で過ごそうと出かけて来たのだが、天候が急変して遭難しかけて…………否、遭難している。 早く吹雪を避けられる場所を見つけなければ、このままだと凍死してしまう。 あ!?あれは? ゆ、湯気が見える。 此処は…………そうだ! 秘境の温泉と言われている露天風呂だ。 これで生き延びられる。 私は服のまま温泉に滑り込んだ。
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