第二話・壊れた男

20/36
2067人が本棚に入れています
本棚に追加
/170ページ
 あれからまた幾日が経った。  今日は珍しい人物から飲みに誘われた。実に二年ぶりに会う、親友の壮だ。  久々に傷ついた壮を見れるという訳だな。どんな風に由布ちゃんの事を想って、傷ついているのだろう。とてもワクワクする。  是非とも僕の琴線を沢山震わせて欲しい。  プライベートな密談にはもってこいのバー『ルタン』に僕は足を踏み入れた。  壮に紹介して貰って玲子と出逢ったバーだ。ここに来るのも随分久しぶりだ。  玲子と会うのはお互い身体が目的だから、専らホテルで会う事が多い。だからこのような人目に触れる場所には、滅多に来ないんだ。  暗く落とされた照明が、個々のテーブルを薄ぼんやりと照らしている。  壮は既にやって来ていて、一番奥の席に座って綺麗な緑色に輝く酒――ジンライムを飲んでいた。ジンライムは、壮が昔から好きな酒だ。相変わらず好きな女も、飲む酒も一緒だな。壮は何も変わらない。 「久しぶりだな、壮。元気だったか?」  僕は挨拶を交わしながら、壮の向かい側に腰を下ろした。 「お陰様で。亜貴も何か飲めよ。ビールか?」 「いいや。君と同じものを貰おうかな」 「オーケー」  相変わらず流暢な英語の発音だ。流石だと思う。壮は慣れた様子でマスターに向かって手を上げ、同じものを彼に、とオーダーを伝えた。
/170ページ

最初のコメントを投稿しよう!